脳性麻痺や脳卒中の方への整形外科的治療のご案内

整形外科的選択的痙性コントロール手術(Orthopaedic Selective Spasticity-control Surgery:OSSCS)とは?

整形外科的選択的痙性コントロール手術は、その名の通り、整形外科的:整形外科医が、選択的:扱うべき筋腱を選んで、痙性コントロール:適切につっぱりをコントロールする、という手術です。

大切なことは、選択的ということであり、残すべき筋腱はしっかり残し、痛みや変形のもととなる緊張の強い筋腱をしっかり選んで緩めることにあります。骨や関節を扱うことはまれで、出血や感染の危険性の少ない低侵襲な手術です。

1978年に福岡県立粕屋新光園(現、福岡県立こども療育センター新光園)園長になられた松尾隆先生が考案された手術で、約50年の歴史があります。新光園は主に脳性麻痺の方々の手術、リハビリを行う施設で、OSSCSは脳性麻痺の方に対する手術として生まれました。現在では、脳卒中後遺症、脊髄損傷、パーキンソン病など様々な疾患、病態に応用されています。

実際の方法

まず、手術前に扱う筋腱を決定します。手術ではその筋腱を出し、筋腱を緩めていきますが、最も強く緩める方法としては「切離」、弱めに緩める方法としては筋肉は残し腱のみ緩める「筋間腱延長」、腱に糸をかけておき緩めたい長さ(10mmや20mmなど)だけ緩める「スライド延長」などの方法を行います。皮膚切開の長さは2~5cm程度にとどめ、侵襲の少ない手術を心がけています。

OSSCSの適応の病態と疾患

以下の様な病態、疾患に適応があります。

1. 筋腱の過緊張(手足・体幹のつっぱり)
脳性麻痺、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)後遺症、脊髄損傷、痙性斜頸 等

2. 不随意運動(自分で意図しない動き)
アテトーゼ、ジストニア 等

3. 関節拘縮(関節が固まり動きが悪いこと)
骨折後遺症、廃用症候群、パーキンソン病 等

脳性麻痺

出生後より続く過剰な筋肉のつっぱりが継続すると、両足が交叉するはさみ肢位や股関節脱臼、膝の屈曲、尖足、肩の引き、肘の屈曲、手指屈曲、脊椎の側弯症などを引き起こし、寝返り、お座り、四つ這い、立位、歩行などの運動発達が進まなくなり、痛みの原因にもなります。また大人になると、関節の軟骨が傷む変形性関節症の原因となったり、アテトーゼ型で頚部に不随意運動を認める方は、手指の細かい動作ができなくなったり、歩行障害をきたす頚髄症などの2次的な障害を引き起こしかねません。OSSCSで過剰なつっぱりを緩めることで、運動機能の改善や疼痛の軽減、2次障害の予防が期待できます。

脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)後遺症

脳卒中後の麻痺は、発症直後よりリハビリに取り組むことで一定の効果が得られますが、手足のつっぱりによる関節変形(尖足、膝の屈曲、肩の引き、肘の屈曲など)や中枢性脳卒中後疼痛と呼ばれる頑固な疼痛が残存する方がいます。OSSCSにより、足の形が改善し装具が不要になったり、肩の引きが改善し体のバランスがよくなり歩行が安定したり、疼痛がほとんど消失する方もおられます。

OSSCSの適応部位

以下の様に、ほぼ全身に手術が用意されています。

1. 下肢(股関節・膝関節・足関節・足底)

2. 上肢(肩関節・肘関節・前腕・手関節・手掌)

3. 体幹(頚部・背部・腰部・腹部)

どこから行うか?

下肢であれば足先よりも股関節から、上肢であれば手先よりも肩関節からという具合に、基本的には体の中心である、股関節、肩関節、体幹等から行うことをお勧めします。その理由として、股関節をするとその先の膝や足が改善したり、肩関節をすると肘や手関節の改善が得られることが良くありますし、下肢の手術後に上肢が改善することや、上肢のあとに下肢が改善することもよく認めます。

何か所も行うか?

中心を行えばその先の部位も改善が期待できますし、何か所も手術を行えば手術時間もかかり手術による侵襲が増えることもあり、複数部位を一緒に行うことは少ないです。また一度扱った部位は再度扱わないでよいように、その時に必要なギリギリの強さで緩めます。しかし、低年齢での手術では成長とともにつっぱりが再度増大し、同じ部位を再度扱う可能性もあります。

OSSCSの目的

以下のような効果が期待できるため、手術の前に本人、ご家族とよく話合い手術を計画します。どのような目的で手術を行うかは大変重要と考えています。

1.「楽」になります

ほぼ100%の方で効果が得られます。筋腱の過緊張による重荷を少なくすることで、軽く、楽になります。

2.「痛み」を和らげます

筋腱の過緊張に伴う痛みをよく認めますが、これが和らぎます。

3.「リハビリ」の効果が得られやすくなります

過剰な筋緊張を取り除き、眠っていた筋腱の力を呼び覚ますことで筋力が増大していきます。さらに関節のスムーズな動きが得られ、リハビリの効果が得られやすくなります。これにより、運動レベルの向上も期待できます。OSSCSはリハビリを前に進めるためのきっかけづくりとも言えます。

4.「股関節脱臼」の改善、予防が可能です

脳性麻痺の多くの方は、股関節周囲の筋腱の過緊張に伴い、股関節の亜脱臼、完全脱臼を認めます。股関節脱臼が進行すると疼痛や動きの悪さを認め、安定した座位や立位を妨げ、生活の質を妨げることになります。脱臼は徐々に進みますが症状に乏しく、ご家族やリハビリ療法士では発見が困難なため、レントゲンでの確認が必須です。脱臼の進行を認める場合は、OSSCSを早期に行うことをお勧めします。しかし高度の脱臼では、OSSCSに加えて骨や関節を扱う手術が必要となるため、幼少時より定期的なレントゲン撮影を行うことを強くお勧めします。

5.「側弯症」の予防になります

背骨のレントゲンも定期的に撮影することをお勧めします。筋腱の過緊張に伴う側弯症の進行を認める場合、背部、腹部等のOSSCSをお勧めします。

6. 姿勢(仰臥位、座位、立位、歩行)の改善につながります

下肢のOSSCSでは、両足がクロスするはさみ肢位やかがみ肢位などが改善したり、深くイスに腰掛けることが可能となり姿勢が安定します。また、上肢や体幹のOSSCSでは肩の引きや体の前屈、側屈、後屈が軽減し、座位、立位が安定することも多いです。

7. 摂食、嚥下、発声、呼吸、よだれの改善

肩、頚部、背部等の顔面に近い部位を扱うと、食事や呼吸、発声などに良い影響がでることがあります。よだれも軽減することがあります。

OSSCSをお勧めする時期

過剰な筋緊張は早い時期に緩めることで、その後のリハビリテーションの効果が得られやすくなります。よって手術適応があると判断する場合は、その時点でお勧めします。

通常、運動機能が停滞し始める3-4歳頃から行うことが多いですが、特別な年齢制限はなく、成人の方でも効果があります。また、重度の寝たきりの方から、歩行可能な方まで、いずれの方にも治療の効果があります。

股関節脱臼や側弯症の進行を認めた場合は、なるべく早期に手術をお勧めしています。

OSSCSの流れ

1. 術前検査

手術の数週間前に術前検査を行います。内容は、年齢、疾患等により異なりますが、採血、検尿、レントゲン、心電図等を行います。

2. 術前評価

手術前に医師、リハビリ担当者とともに、術前評価を行います。別の病院でリハビリをされている方は、これまでの経過も取り寄せ、総合的に評価し、手術部位、扱う筋腱等を最終決定します。

3. 入院期間

入院期間は、数日~約2週間の方がほとんどです。

4. 退院後

当院外来にて定期的に経過観察を行います。基本的には術前に行っていた病院でのリハビリを再開します。

治療費用について

保険診療可能です。自立支援医療(育成医療)や高額療養費制度、重度心身障害者等医療費助成等を受けられる場合もありますので、お問い合わせください。

鹿児島での治療実績

2013年から鹿児島での手術を開始し、これまで345名(635関節(部位))の方にOSSCSを行いました。(2023年2月現在) 他県からの患者様も来院され、大変喜ばれています。

担当医紹介

整形外科:寺原 幹雄(てらはら みきお)

主な経歴

2001年 九州大学 整形外科入局
2006年 福岡県立粕屋新光園
2009年 鹿児島大学 整形外科入局
2010年 菊野病院
2012年 南多摩整形外科病院・熊本リハビリテーション病院
2013年 三愛病院
2018年 ひまわり病院・やまびこ医療福祉センター
2022年 霧島整形外科病院

資格

  • 日本脳性麻痺の外科研究会 幹事
  • 鹿児島大学整形外科 非常勤講師
  • 日本整形外科学会 専門医
  • 身体障害者診断書・意見書作成指定医(肢体不自由)

所属学会

  • 日本整形外科学会
  • 西日本整形・災害外科学会
  • 日本小児整形外科学会
  • 日本脳性麻痺の外科研究会
  • 日本リハビリテーション学会
  • 日本手の外科学会
  • 日本足の外科学会